本記事は、TRPGサーバー 「Sandbox」 Advent Calendar 2019 の寄稿記事です。 https://adventar.org/calendars/3873
Sandboxサーバーの現状について
Sandboxサーバーは、稼働開始から19年12月で満3年を迎える、まだまだ新興のTRPGサーバである。サーバ参加者のユーザビリティを向上させる新しい手法をサーバの運営に取り組めないか、日々試行錯誤的に実験しているのが現状である。
この取り組みの中で、私は主にDiscord上で運用可能なbotの開発に従事してきた。本Botの主要な機能として以下の3つがある。
- サーバー参加者のセッションの募集文/参加申請の管理機能
- キャラクターシート作成支援機能
- サーバーイベント支援機能
bot開発の中で、botが管理するセッション募集文のフォーマットに「初心者対応の可否」項目を追加した際の反響が、特に印象に残っている。

本アップデートは19年10月に実施し、アップデート後から現在までに多くのセッション募集文の投稿がサーバ参加者によって行われた。この募集文の投稿を集計すると、初心者対応不可とする募集文はわずか2件(これらは募集から卓の開催が極めて短い突発卓であった)であり、全体の5%にも満たない数であったことに私は驚かされた。
この事例から、本サーバーの参加者は初心者対応に積極的であること、初心者を受け入れる風土が醸成されていることが確認できた。一方で、具体的に初心者への対応としてどのような行動をとるべきか、その実施方法についてはサーバーとしても、また参加者個人個人としても確立しているとは言い難いのが現状であると私は認識している。
本記事ではこの初心者対応を実施するセッションについて、何を実施すべきかを検討/考察したものである。なお、これは私個人の考えでありこの考えを読者に強制するものではないし、本サーバーの方針等とは無関係であることはご了承願いたい。
初心者対応セッションのゴールとは何か
初心者対応セッションにて何を実施するか考察する前に、まず初心者対応セッションは何を目指すべきか、そのゴールについて整理する。
初心者対応セッションとは、「あるTRPGシステムに対して未経験/不慣れなプレイヤーに対して実施し、そのシステムを継続的に遊んでもらえるプレイヤーを育成する」ために実施するセッションであるとまず定義する。そのため、最終的なゴールとしてはプレイヤーの育成であると言える。
継続的に遊んでもらえるプレイヤーとは何か、私は以下の項目に当てはまるプレイヤーであると考える。
- そのシステムの面白さを理解し、再度そのシステムを遊びたいというモチベーションを持っているプレイヤー。(レベル0)
- ルールに不慣れではあるが、周囲からの補助があればセッションに参加できる実力があるプレイヤー。(レベル1)
- ルールをある程度把握し、自分が作成したいキャラクターを作成できるプレイヤー。また、システムにあわせたRPを主体的に実行できるプレイヤー。(レベル2)
- シナリオを用意し、セッションを開催できるプレイヤー。(レベル3)
初心者対応セッションでは、上記項目のうち最低でもレベル0、可能ならばレベル1のプレイヤーを育成することが目指すべきゴールであると考える。以降これらのレベルを達成するための施策について検討する。
レベル0達成のための施策
そのシステムの面白さを理解し、再度そのシステムを遊びたいというモチベーションを持っているプレイヤー。(レベル0)
これを達成するために何が有効か、それを考える前に以前別のサーバで私が体験した初心者対応セッションについて述べる。
私が体験したのは「ダブルクロス」というF.e.a.r系のシステムで、プレイヤーはゲームマスターを含めて5人。ゲームマスター以外は全員ダブルクロス未経験であり、うち2人はダブルクロスのルルブもリプレイも見たことがないという状態であった。日程としては、ダブルクロスについての説明に3時間、セッションに9時間、説明とセッションの間に1週間キャラ作成の期間が設けられていた。(ルルブ未所持者はキャラ作成期間中にルルブを購入した。)
ここで言及したいのは、ダブルクロスの説明に用いられた3時間での出来事だ。ゲームマスターは初め30分程を基本用語の説明に使い、残り時間をどのようなキャラクターを作れるかというキャラクターの能力(シンドローム)の説明に費やした。つまり3時間延々とこのゲームの世界観やシステムについてしゃべり続けたのだ。
この説明のあと、ダブルクロス未経験の2人にどのようなゲームか分かったか尋ねたところ、「超能力者を作って、ヒャッハーするゲーム?」という答えが返ってきた。違うそうじゃない…。

もちろん世界観やシステムについての説明は大事だが、まずはもっとストレートにこのシステムの何が魅力なのかを説明すべきではないだろうか。
例えばダブルクロスの場合、「人間と化け物の間で揺れ動く葛藤をロールプレイできること」が最大の魅力なのではないかと個人的には思っている。(「中二病ができるTRPG」とか、「大体のキャラクターを再現できるTRPG」などと評されるが、私は葛藤が一番の肝なんじゃないかなぁと思っている。)
ここまで書いて、約1年前にSandboxで流行した「銀剣のステラナイツ」のことを思い出した。発売されたばかりのシステムということもあり、本システムを経験したプレイヤーが何人ものシステム未経験者に「銀剣のステラナイツをやろう」と声をかけていたのだが、その説明は大体「シースとブリンカーの2人でエモいロールプレイをするゲーム」で終わっており、かつ端的にシステムの本質・魅力を説明していたように思うからだ。

レベル1, 2達成のための施策
ルールに不慣れではあるが、周囲からの補助があればセッションに参加できる実力があるプレイヤー。(レベル1)
ルールをある程度把握し、自分が作成したいキャラクターを作成できるプレイヤー。また、システムにあわせたRPを主体的に実行できるプレイヤー。(レベル2)
これらを達成するための施策について考える。
まず、各TRPGのゲームシステムを理解する(世界観などの理解は除外する)ために私が行っている手順を示す。
- セッションの流れを確認し、大まかにフェーズに分ける。
- 各フェーズの流れを更に細分化し、それぞれで行う処理を確認する。
- キャラクターシートのパラメータ等を確認し、上記項目の処理と何が関連しているかを整理する。
- キャラクターの作成方法を確認する。
まず、セッションの流れを抑え、どのような判定があるかを確認し、それに使用するステータスを分析し、キャラクターの作成を行う。経験上4から始める人が多い気もするが(そして大体のルールブックでキャラクター作成の項目がセッションの流れの項目より前にある気もするが)、この手法の方がわかりやすいと個人的には思う。
この方法で整理したとき、2番の整理結果がそのまま「ルールのサマリー」となるし、また同時に初心者に教えるべきルールとなる。
悪い例だが、延々と細かいルールを教えようとするプレイヤーがいる。具体的にはある技とある技を同時に使った場合の裁定など、極々限られた場合にしか考えられないルールについて「こういうときルールが破綻する」と説明しつづけるプレイヤーのことだ。もちろん経験者にとってこれらの情報はジョークとしてとても面白いのだろうが、初心者には一切必要ない。必要なことを、必要なだけ説明すべきなのだ。
レベル3達成のための施策
シナリオを用意し、セッションを開催できるプレイヤー。(レベル3)
ここまでの域に達するプレイヤーの育成は、もはや初心者対応セッションの範囲外ではあると思うが、レベル0~2について触れたのでレベル3についても少しだけ述べる。
ゲームマスターに要求される能力は多岐にわたる。例えば、以下のような項目があげられる。
- スケジュール管理/調整能力
- シナリオの組み立て/調整
- ギミック/エネミーデータの作成
- NPCの性格設定/RP方法
- セッション中の時間管理
これらの要求に対して、各ゲームマスター毎にそれぞれ独自の手法を有していると思われる。それらの手法を共有することで、ゲームマスターとしての能力を高めあうことが可能だと考える。
しかし、一方で全てにおいて完璧である必要はない(もちろんできるに越したことはないのだが…ゲームマスターだって人間です)。大体以下の3つを抑えていれば、ゲームマスターはできると思っている。
- 「このシナリオをうまく回せるかな」とか「ルールの裁定を間違えたらどうしよう」といった不安に、「うまくできなくてもまぁ何とかなるだろう」、「最低間違ってもまぁゲーム進行が止まらなければいいだろう」と失敗に対して極度な恐れをもたないこと。
- 「完璧で幸福なシナリオを作らないと」とか「私が完璧で幸福にルールを把握しておかないと」といった完璧さを求めずに、「内容が一切ないけどプレイヤーのロールプレーで面白くしてもらおう」、「わからないルールがでてきたら知ってるプレイヤーに聞こう」とプレイヤーに頼ることを覚えること。
- 「シナリオで予定していることだから、全てやりきろう」など予定ありきでセッションを進めずに、「時間が押してるからこの内容は削除しよう」「このままだと終わらないから、ここで切って別日に改めて続きをやろう」など時間を管理すること。
もし、ここまで読んでくださった方で、まだゲームマスターをやったことがない方、ぜひゲームマスターをやってみませんか?
文書化してみませんか
ここまで初心者対応セッションのゴールは「 継続的にTRPGを遊んでもらえるプレイヤーの育成」と定義し、 継続的にTRPGを遊んでもらえるプレイヤーとは何かを分析し、各項目について以下の施策を提案した。
〇そのシステムの面白さを理解し、再度そのシステムを遊びたいというモチベーションを持っているプレイヤー。(レベル0)
→ そのゲームの面白さ・魅力を端的かつ適切に伝える。
〇 ルールに不慣れではあるが、周囲からの補助があればセッションに参加できる実力があるプレイヤー。(レベル1)
〇 ルールをある程度把握し、自分が作成したいキャラクターを作成できるプレイヤー。また、システムにあわせたRPを主体的に実行できるプレイヤー。(レベル2)
→ どのセッションでも使用する汎用的な必要最小限のルールのみを教える。
〇 シナリオを用意し、セッションを開催できるプレイヤー。(レベル3)
→ 各ゲームマスター毎の手法を共有する。
これらの施策について、どれも文書化することで容易に共有/再利用することが可能である。ということで、このアドベントカレンダーイベントを利用して、誰か何か一筆書いてみませんか?
最後に予告!
最後に蛇足ですが、個人的に挑戦している(?)二つの取り組みについて予告。
1.大型ダブルクロス初心者対応セッションの実施
私はダブルクロスがやりたい。
GM2回PL0回だが、私は、ダブルクロスがっ、やりたいっっ!
ということで、初心者対応セッションを実施する予定です。
しかも普通の初心者対応セッションではありません。大型です。
というのも、「Sandbox全体で共有できる世界観、容易にシナリオを作成できる環境の構築」を目標にしているからです。
現在、世界観のデザインおよびセッションのシナリオまでは作成済み。残りは敵データの作成と、世界観を共有するための各種ドキュメントの作成…。隙間の時間を見つけてコツコツと作っていますが、まだ少し時間がかかりそう。
2.ワールドトリガーTRPGの制作
漫画「ワールドトリガー」の世界観でオリジナルシステムを作りたいなと前々から思っていて、でも思っているだけで動けていない体たらくですハイ。
この漫画、特にランク戦をすごくTRPGで再現したいんですよね。Web上にいくつか自作システムを上げてる方々いらっしゃるのですが、特にランク戦の最初敵が見えない感じを再現したい…っ!ルールとしてはすごく重くなるけど、半分ボードゲームの感じで盤面非公開、でも徐々にターンが経過していくとお互いの位置がわかっていって…というような!!

2019年も残り1月。今年も、そして来年度も夕蝶をよろしくお願いしますー!
著者:夕蝶(plough#3408)
2018年2月19日Sandbox加入。学生時代に書店でGURPS妖魔夜行のリプレイを読んだことがきっかけでTRPGを知るも、友人関係に恵まれずこのSandboxに所属するまでTRPG未経験。
本人は高い常識力を持っていると自認しており、 彼のプレイヤーキャラクターは街中で全裸になったり館に火を放ったりと、常にセッションで常識的な行動をとる。
座右の銘は「明日やってもいいことは明日の自分に期待しよう」。なお、この記事を書き上げたのは12月1日(記事公開日前日)である。
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